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 琴は村を出ては生きてゆけない。この小さな村だけが琴の世界だった。由の手を跳ね除けると琴は、橋の欄干へ身を任せ、滝へと身を投げた。  滝に吸い込まれる琴に狼狽した由は、近隣の者に助けを求めたが、琴は二度と戻らなかった。  村人達は、事の次第はわからなかったが、琴と由そして行商人の若者の間に何かあった事だけは察した。  しかし村人達にとって厄介者の娘が一人消えただけの話で。話題にする者もすぐに、いなくなった。  行商人の若者は、村人に琴の行方を尋ねてはみたが、みな口を硬く閉ざしただけだった。 帰り際、若者は橋の袂で時を潰す様になったが、橋を渡ると何度か振り返り、帰途に着くしかなかった。
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