桜の鬼

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桜の鬼

 琴はきらきらと煌く水面を見ていた。時折小魚たちが琴の近くを泳ぎ去り、着物の影に隠れたりもしている。琴は死んだ。けれども、何故か恐怖も悲しみも何も感じない。ただ、滝壺の中に流れ落ちた水が作った泡が、ふわふわとのぼってゆくのを眺め。冷たい水の中で漂っていた。  よくはわからないが、滝壺には何者かの気配があった。きっと滝に宿る精の類なのだろう。滝の精は年老いた仙人で、琴を哀れに思い外界から離したのだった。精は「何時まででもここに居てよい、わしと共に水面を眺めていよう」そう言った。  しかし琴はここは寒いと泣いた。あまりに琴が悲しむものだから、やがて滝の精は琴を水の世界から放した。
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