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 昔、人里はなれた山間の小さな村に娘がいた。名を琴という。  村は谷の傾斜にあり、谷の底には小川が流れていて、滝には深い淵があった。淵の上には小さな橋がかかり、橋の上の見事な桜の木が、季節になると橋を渡る者を桜吹雪で迎えた。  琴には身寄りがなく、村にある数件の農家が琴の面倒をみていた。だから琴は自分の名前の由来、琴を見た事がない。産まれてこの方外界を知らない琴は自然の木々や草花、そして虫たちと共に暮らしていた。
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