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 何事が起きたのか、頭の中がぐるぐると巡るも何も考えられない琴は、大きく肌蹴た着物をなおすと、隣りで息せき切っている由から逃れようと表へと出た。だからといって、これから何処に行くのか当てなどはない。  その後ろ姿を見て、逃げられては不味いと思い、そしてむくむくと頭を持ち上げてきた更なる欲望に、由は琴の後を追った。  そこへ谷の橋を渡り、琴の待ちわびた行商人の姿があった。  若い行商人は何時もの様に琴に話しかけたが、あれ程待ちわびていた筈であったのに、何故だかわからない気持ちが琴の足を重くした。
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