チョコレートには妖精が……。

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「うん、吹奏楽部の活動予定表を届けに来たの。それでついでだから、今日の宿題プリントも預かってきた。提出は来週でいいって」  木ノ原が手渡してくれたのは、吹奏楽部の来月の活動予定と英語のプリントだった。あの英語教師、容赦がないな。 「ありがとう」 「それから、迷惑でなかったら……」  プリントを受け取ると、木ノ原は怖ず怖ず小さな紙袋を前に差し出して俯いた。  受け取った白い紙袋は、表面が加工してあるのかキラキラ虹色に光っている。  昆虫の羽のような、雲母の欠片のような輝きに、また何かを思い出し掛けたけど……何だったかな。 「これ、もしかしてチョコレート?」 「……」  木ノ原は、真っ赤になって両手で顔を覆った。白くて、ちょっとふっくらした指に絆創膏が貼ってある。 「指……怪我してるの?」 「あ……、ゆうべ火傷しちゃって……」 「アルトサックス、演奏できないじゃん」 「平気、たいしたことないもの」  手を後ろに隠すようにして、木ノ原が微笑んだ。  つんとした鼻、柔らかそうな唇、少し赤らんだ白い頬、子犬みたいな黒目がちの瞳……。  心臓が早鐘を打ち、顔が熱くなる感覚に俺は戸惑った。  この感じ、覚えがある。 「まだ熱があるんだ、赤い顔してる。早く良くなってね、じゃあ……」 「待てよ」  振り返った木ノ原の、少し茶色掛かったポニーテールがクルンと揺れた。 「特効薬、もらったからもう大丈夫。ありがとう……な」  驚いたように目を見開き、それから木ノ原は嬉しそうに笑った。  その笑顔の周りに、キラキラした欠片が瞬くように散るのが見えた気がした。 おしまい
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