チョコレートには妖精が……。

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 死ぬだの特効薬だの、何を言い出すかと思ったら……。  はたはたと、飛んできた女の子が俺の鼻に留まって眼を覗き込んだ。 「食べてやってくれ」 「あのなぁ、そういうの嫌いなんだよね。お仕着せがましいって言うか……だから何だよって、思うんだけど? 感動しなきゃならないのかよ? 俺は、木ノ原なんて……」  正直、そんな事言われたら嬉しいさ。しかし俺にだってプライドがある、たとえ夢の中だってホイホイ喜んだら格好悪いじゃないか。  そう言えば、保健室まで鞄を持ってきてくれたのは木ノ原だったような気がするな。 「大丈夫?」とか何とか言ってたっけ? ぼうっとしてたから、よく覚えてないけど。  吹奏楽部では、小柄なくせに大きなアルトサックスを操っている。入部したての頃は顔を真っ赤にして演奏してたけど、そう言えば最近上手くなってきた。  ポジションは俺の斜め前だから、間違ったりするとすぐ解るんだ。  あいつ俺の事、気にしてたのかな? 俺の為にチョコを作るって事はつまり……?  変だな、だんだん息苦しくなってきた。顔も熱くなってきたし……。 「食べて……くれないのか?」  間近で見た女の子の顔は、何となく木ノ原に似ている気がした。  つんとして、可愛い鼻。厚みがあって、綺麗なピンク色の柔らかそうな唇。つついてみたくなる、白い頬。  うっすら涙らしきものを浮かべて俺を見つめる、ちょっと小さくて子犬みたいな眼。  マジ、やばい。心臓がばくばくする。 「ま、まぁ……しょうがねぇな。食ってやるけどさ」  精一杯の虚勢を張って呟いた声が、うわずってかすれた。 「そうか! 良かった!」  女の子は、にっこり笑って俺の鼻の上から舞い上がった。 「きっとだぞ」  そして、すうっと消えてしまった。  夢か?   それにしたって、変な夢だ。俺は部屋中を見回したが、あの女の子の姿は影も形もない。  だんだん頭がぼんやりしてきて、俺はそのまま眠気に吸い込まれていった。
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