笹暮

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この病院とも、今日でお別れか。 そう心の中で呟きながら、僕は今度は病室の中を見渡した。この病室は定員二人の小さな相部屋である。 僕はまず自分のベッドの横にある棚を見た。そこにはクマのぬいぐるみが座るように置かれている。 このぬいぐるみは、僕にとって良いことも悪いことも引き起こしてくれた。次にこのベッドを使う人には、僕よりも悪いことが起こるといいな。 まあ、それは無理だろうけど。 ふと窓の方を見ると、窓の外の庭に咲いているゴジアオイの花が目に入った。 昨日この花を見つけた時は、なぜ病院にこんな花が? と思ったが、今日になって妙に納得してしまった。 心なしか先ほど見た時よりも萎んでいるように思える。 花で思い出したが、この前学校の友達が花をもってきてくれたんだった。 だが、花瓶に活けてあるその花はいつの間にかどれも枯れてしまっていた。 学校か...... 僕が入院してた間、どれくらい勉強が進んだのだろうか。どれほど楽しい時が流れたのだろうか。 久しぶりに学校に行ったらちゃんと授業を聞こう。そして、友達とたくさん遊ぼう。 そんなことを寂しく妄想しながら、僕は次に反対側のベッドに目を向けた。 【笹暮】と書かれている僕のベッドとは対照的に、何も書かれていないそのベッドは、数日前まである女の子が使っていた。 その女の子は、僕とは別の理由でこの病院からいなくなってしまった...... 約束したのに...... 一緒に無事に退院しようって言ったのに...... なんで...... 彼女もこんな気持ちだったのだろうか。 沈んでいく夕日と共に、僕の心も次第に沈んでゆく。ゴジアオイの花もそれに合わせて萎んでいく。 そういえば、よく僕の面倒を見てくれたあの看護婦さんは今日はお休みだろうか、最後にお礼を言いたかったな。 そろそろ迎えが来る時間か。 ゴジアオイの花が完全に萎んだ。 もう二度と来たくないこの場所に。 今日、僕は別れを告げた。 でも、もう一度だけ君と会いたいな......
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