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僕が入院してしばらく経つと、一人の女の子が同じ部屋に入院してきた。
彼女も何かしらの病気らしい。
同い年くらいのその女の子は、僕の方を見るや否や、大きな目を輝かせて小さな口を開いた。
「そのクマのぬいぐるみ、君の!?」
通路越しにかけられたその問いには、病院の中とは思えないほどの熱量が込められている。
「えっと、僕のじゃない。元から置いてあったやつなんだけど......」
「え~、いいなぁ~」
僕が答えると、彼女は羨ましそうな声を漏らした。
「そうだ、じゃあちょっとそれ貸してくれない?」
「えっ、いいのかな。勝手に移動しちゃって......」
「たぶん大丈夫だよ。ねぇ、はやく~」
「でも......」
僕が彼女にぬいぐるみを渡すか迷っていると......
突然、先日と同じようなドアの開く音が聞こえてきた。
僕達はその音に驚き、僕はぬいぐるみに伸ばしかけた手を硬直させ、正面の彼女は顔を引きつらせていた。
「はーい、結花ちゃん。熱測りますよ」
ドアの方を向いてみると、音を立てて開いたドアから、あの看護婦さんが部屋の中に入ってくるところだった。
一瞬だけドアの方に気を取られた目線を元に戻すと、キョトンとした顔をしている結花ちゃんと呼ばれていた少女と目が合う。
フフッ......
ほぼ同時に二人の口元が緩んだ。
先ほどの驚いて硬直したお互いの姿が、おもしろすぎて脳裏から離れない。
さらに、悪い話をしている時にタイミングよく看護婦さんが現れたという出来事も、僕達の笑いを助長していた。
笑いをこらえようと努力はしたものの、忘れようとすればするほど鮮明に頭の中に浮かんでくる。
そして最終的には、二人とも我慢できずにここが病院だということも忘れて大声で笑いだした。
二人の子供の大きな笑い声が小さな病室の中に響き渡る。
廊下にも届きそうなその声は、僕と彼女の距離を一気に縮めてくれた。
そんな爆笑している僕達の姿を、看護婦さんは不思議そうな顔をして眺めていたのだった。
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