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煤けた暖炉にオレンジ色の暖かな火。
ふんわり香るダージリンにちょっぴり焦げたシナモンクッキー。
それが、祖母との懐かしい思い出。
「うわ、汚い」
古ぼけてはいるが、居心地の良さそうな書庫の最奥、窓からの日差しも届かない薄暗い本棚は、まるで雪のような白い埃が覆っている。
「あ~あ。めんどくさい」
茶色いベストに茶色いカボチャパンツの少女は、自然そのままなあまり手入れのされていない明るい髪に特徴的な大きな黒い帽子を被っていた。
「・・・・・・」
埃で咳き込まないよう息を止めて、目的の本を数冊手に取る。
何か手ごろな入れ物は無いかと周りを見渡してみたがここは書庫、あるわけも無い。
仕方が無いので、いつも被っている帽子にそこらに投げていた本を突っ込み、先ほど手にした本と一緒に持ち出すことにした。
「意外と嵩張るよなぁ」
先祖から受け継いだ大事な帽子だ、祖母が見たら怒るかなと何となく気まずい気分で苦笑いを浮かべた。
今日でこの屋敷を引き払う。
とくに必要な物はないけれど、何となくここに居る本達を連れて行きたいと思った。全部は無理だしな。
そのうち取りに来れば良いか。
まぁいつ来るかは分からないが、封印するんだ、無くなる事はないし。
重い樫の木の扉を開け、ちょっとだけ寂しく思った。
意外とまだ子供の私が居るんだと感心する。
「やっぱり人間なのかなぁ?」
乱雑に詰め込んだ本が重い。
陽当たりの良い廊下を何時もよりゆっくり歩くと、窓からは何時もと変わらない、自由気ままに生えた木々が、太陽光をいっぱいに浴びて気持ち良さそうに昼寝をしている。
「相変わらず、のんびり屋だな」
今日、出発するって教えてたのに。
少し恨めしく思いながら、慣れた手触りの真鍮のドアノブに手をかけた。
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