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【1】
ゴールデンウィークは多忙を極めた。
三日が三日、萌高生徒関連だった。
八月一日葉月との密会。同級生との交流。そして、包帯少女の再会。
これらがこぞって雪崩れ込んできたのが今年のゴールデンウィークだ。
僕としてはせっかくのゴールデンウィークだから勉強でもしようかと張り切っていた最中のイベントだったので、疲労が著しかった。
そして心身ともに休めなかったゴールデンウィークの翌日、さらなる苦難に襲われていた。
「どうするんだ?」
放課後、学級委員長の僮沢亜美は机上のプリントを呆然と眺めている僕に金切り声で訊いてきた。
ゴールデンウィーク前まで三つ編みだった髪は陸上部に入部するためとベリーショートにし、丸縁眼鏡からコンタクトに変えた。
証人は僕だ。
「どうしろって言われても」
「言われても? 締切まであと一日しかないんだよ?」
「分かってるよ。けどなあ……」
僕は渋ってまま窓の外を見る。窓側一番後ろの僮沢の席に座らされている僕はそこから中庭の様子が窺えた。
いまだに席替えをしていないこのクラスのおよそ中間に席を構えているので、外の景色はなかなかお目にかけれない。
せいぜい渡り廊下を隔てた奥の教室の窓しか目に入らなかった窓にはその下部の光景が映っていた。
中庭は赤煉瓦と草木で織りなされている。横一直線に伸びた赤煉瓦の小径を草花が覆っている。小径の中央には聳え立つ一本のイチョウの木があり、それを囲うようにデザインされた円形のベンチで数人の男女が談笑していた。
その中に持田紫を認めた。
持田がいるということは、おそらくあの集団は文芸部だろう。
相変わらず僕以外には純真な笑顔を振り撒く持田に苛立ちを覚えた僕は視点をずらす。
その先には二段の整列を組んで、前にいるジャージ姿の男性に向かって全員同じように大きく、小さくとリズミカルに口を開閉している。男性が首を振りながら足元のラジカセのスイッチを押し何かを叫んでいた。
あれは合唱部だろう。部員低迷で廃部の危機にさらされていると聞く。
文芸部も確か廃部危機だったはずだが、合唱部の険しい顔と違い、中庭にいる者は全員朗らかだった。
「でもじゃない」
外の景色に見蕩れていた僕を現実に戻していたのは他でもない僮沢だった。
彼女は軽く窓を叩いて机上のプリントを指差していた。
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