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「早く決めてよ! 部活入部届の締切七日までだってこの間も言ったでしょ!」
僮沢が怒るのは当たり前だった。
彼女の言うとおり、僕は部活入部届の提出に追われていた。
薄っぺらい用紙一枚にこれだけ迫られるのはテストの日だけだと思っていたが、入学して早一ヶ月で幻想は打ちのめされた。
僮沢に部活入部届を提出していないのは何も嫌がらせではない。
学級委員長選挙で本当の決意をぶつけ合った仲に、そんな陳腐なことはしない。
ましてや、副委員長に推薦までしてくれた相手に嫌がらせなんて失礼もいいところだ。
まあ、今現在失礼をしちゃっているのだが。
こうして提出を遅延しているのは単純明快で、入ろうと思う部活がないからだ。
脚を怪我しているという体質上、サッカー部をはじめとする運動部が一斉に除外される。
僮沢が所属する陸上部も怪我の再発のリスクが高いため入ることはできない。
陸上部に勧誘してくれたときに理由を話して断った後のしょんぼりとした彼女を思い出すと心が痛むが仕方ない。
だから僮沢はこれ以上陸上部を推してこない。
と、ここで一つ確認しておきたいことを思い出した。
「そういえば僮沢って中学時代の部活って陸上部?」
「何? それは部活選びに必要なこと?」
「まあ、参考にしたいし」
何をだよ。我ながらおかしな言い訳だ。
「ソフトボール部よ。これでも全国行ってるんだから」
「おお。じゃあ僮沢ってクス中出身なんだ」
クス中――公立楠中学校は近辺ではソフトボール部が有名だった中学で、二年前に全国大会に出場している。
優勝とはならなかったが、準決勝進出という成績は称えられるべきものだろう。
「そうよ。私、そのときライトだったんだよ」
「へえ、僮沢はレギュラーで出場していたのか」
「そうそう。応援歌とか楽器の音で集中できたもんじゃなかったよ」
「そんなもんなのか」
確認ついでに会話で間を繋ぎながら部活を考えていたのだが、自分に合うような部活というのは全然検討がつかない。
もっとも、『全然』というのは『まったくない』という意味ではなく、『ほとんどない』という意味だ。
そんな極微の部活類をリストアップした紙切れは僕のポケットの中にある。
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