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「はい。あーん」
言われるままに口を開けていて、だけれど彼女は手に持つチョコを、僕の口の中には入れてくれない。
ねっとり、と頬への感触。彼女は気にせずその面積を広げる。塗りたくるように、僕の頬にチョコをつける。
「あーあ。失敗しちゃった」
甘いのは苦手。でもハルトさんは、大好物で。それならハルトはどうなんだろうって、僕は誰に聞けばいい?
「ちょっと。動かないでね」
彼女の顔が近づいてくる。吐息のかかる距離。甘ったるい匂いと共に、彼女の口から妖しい舌が出てくる。その真っ赤な舌が、僕の頬を這いずりまわる。甘ったるいチョコレートと、人間の温度。その生温かさに、しびれを起こす。
「ハルトのほっぺ、あまーい」
舐め終えた僕の頬には、彼女の唾液がついていて。きっとそれも、甘くて甘ったるいはずで。
「ハルト、口移ししてあげよっか?」
蕩けてしまう甘さに酔いしれる前に、僕は彼女に言わないといけない。血の繋がりとか。姉弟とか。もっと普遍的な。もっと根本的な、何か。
でも、僕は言ってしまう。
「うん。お願い」
嫌いな甘さが口に含まれるその瞬間、自分が弟であることを猛烈に憎み、直後にそれを後悔しながら、それでも僕は彼女を受け入れる。
感謝の言葉と共に。
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