小佐野さんと松戸くん

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本屋さんから歩いて5分くらいだった。 駅とは反対の方向の、ふつうの家ばっかり建っているところに、こじんまりとした喫茶店があった。定年で仕事をやめたご主人と奥さんが二人でやっているそうだ。   ドアを開けると、カランコロンというなつかしい音がした。 お店の中はカウンターとテーブルが3つあるだけ。テーブル席はそれぞれ形のちがうソファがおいてある。かべや天井なんかは茶色と緑でそろえてあって、小さい音でジャズか何かがかっている。 お店のご主人はカウンターの中でコーヒーまめを仕分けていた。奥さんのほうがウエイトレスのようだ。 「いらっしゃい。バレンタインデーにうちを使ってくれるなんて嬉しいわ。男の子の方は何度か来てくれたことあるわね。焼きたてのチョコクッキーもあるから、よかったら頼んでね」 席にすわると、メニューとお水の入ったグラスが運ばれてきた。 「どうここ?」 「なんだかレトロな感じでおちつくね」 手書きの小さなメニューをひろげる。 わたしはレアチーズケーキと大好きなピーチティーをたのんだ。松戸くんはガトーショコラとコーヒーだ。ミルクと砂糖はいらないらしい。苦いのが苦手なわたしには松戸くんがちょっと大人に見える。
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