6人が本棚に入れています
本棚に追加
本屋さんから歩いて5分くらいだった。
駅とは反対の方向の、ふつうの家ばっかり建っているところに、こじんまりとした喫茶店があった。定年で仕事をやめたご主人と奥さんが二人でやっているそうだ。
ドアを開けると、カランコロンというなつかしい音がした。
お店の中はカウンターとテーブルが3つあるだけ。テーブル席はそれぞれ形のちがうソファがおいてある。かべや天井なんかは茶色と緑でそろえてあって、小さい音でジャズか何かがかっている。
お店のご主人はカウンターの中でコーヒーまめを仕分けていた。奥さんのほうがウエイトレスのようだ。
「いらっしゃい。バレンタインデーにうちを使ってくれるなんて嬉しいわ。男の子の方は何度か来てくれたことあるわね。焼きたてのチョコクッキーもあるから、よかったら頼んでね」
席にすわると、メニューとお水の入ったグラスが運ばれてきた。
「どうここ?」
「なんだかレトロな感じでおちつくね」
手書きの小さなメニューをひろげる。
わたしはレアチーズケーキと大好きなピーチティーをたのんだ。松戸くんはガトーショコラとコーヒーだ。ミルクと砂糖はいらないらしい。苦いのが苦手なわたしには松戸くんがちょっと大人に見える。
最初のコメントを投稿しよう!