犬心あれば猫心あり

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犬心あれば猫心あり

【another side】 『おはようございます』 『おはようございます』 『おはよう、今日もキュートだね』 『おはようございます。今日も調子がよさそうですね』 入り口で挨拶をすれば、時折挨拶に交じってリップサービスが届けられるが、にっこりと笑いながら頭を下げる。 こんな事で一々真に受けていたらここで働くことは出来ないだろう。ここは日本においてもしかしたら一番リップサービスが旺盛な弁護士事務所なのだから。 『おはよう、ハツネ』 『おはよう』 『おはよう、ボス。後で相談したい事があるんだけどいいかな?』 『おはよう、わかった。後で俺のデスクに来てくれる?』 一際賑やかな挨拶とともに颯爽と入ってきたのは、この事務所のトップであり、最年少の在籍弁護士。しかしながら手腕はここにいる誰よりも敏腕で、誰もが彼に一目置いている。 「おはようございます、黒柴先生」 「おはよう。あ、今日は艶がいいね。もしかして新しいファンデか何かに変えた?」 「流石リップサービスもお上手で」 「はは、手厳しいなぁ」 笑いながら挨拶をするも、内心で軽く驚く。どうしたら気が付くんだろう。ずっと一緒にいた彼氏ですら気が付かなかったのに。 (プレイボーイにとっては女性のファッションもステータスの内なのかな) 変な関心をしつつ通常の笑顔に切り替えれば、長身でスタイルのいい後ろ姿が、ブランド物の香水らしき匂いをさりげなく振りまいて、廊下を通り過ぎていく。
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