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だけどこんなモデルいただろうか。決してかわいいと言うだけでもなければ、綺麗と言うだけでもない。
うまく言葉が見つからなくて、目を離すのが何となく勿体なくて見つめていると、相手の瞳がゆっくり閉じられたかと思えば、不審なものを見るようなものに変わる。
勿体ない、とぼんやり思ってからはっとする。
「ご、ごめんなさい!」
遅れてやってきた羞恥心に、相手が年下なのも忘れて思いっきり頭を下げると、もつれそうになる足を必死に動かしてエントランスから走り去る。
『……ちゃん。……………こうか』
『……ば……』
『何…………』
『……寿司……』
『いい……楽し………』
自分のハイヒールの音に交じって後ろから聞いた事がある人の声がかすかに聞こえてきた気がしたが、振り向く余裕はなかった。
「びっくりした……」
いつもさらっと受付を通り過ぎてしまうからまじまじと見たのは初めてかもしれない。
受付では探るような視線はご法度だし、まして彼女に関しては所長自ら箝口令を敷いている。だけど今は仕事外で、初めて真正面から見た少女は、兄弟説を立てた彼と比べるのも忘れてしまう程インパクトがあって、なのに不思議な事に今思い出そうとしても大きな猫のような瞳しか思い出せない。
「……不思議な子……だったな……」
まだまだ私には知らない世界がたくさんある。少なくともすぐ傍にも1つ、あったんだなと思いながら、下手くそなスキップで誤魔化しつつ帰路を急いだ。
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