犬心あれば猫心あり2

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名人戦も本因坊戦も直前に何らかのアクシデントがあって、もしくはちょっとした歯車が狂って取れなかっただけで、こうやってちゃんと対局場所に来ることが出来れば僕の同期であり今回の挑戦者側である白臣 蛍(しらおみ けい)、こいつに勝てる女流棋士はいないと思う。 別に僕が自慢したところで何の得もないし、身内の贔屓でもない。そんな事をしても意味ないし、あいつは何もしなくても強いし。 ジャケットなのにフリルが付いている、ちょっと甘めの黒のジャケットに、ネイビーブルーのリボンネクタイ姿のあいつは、こうやって見ると和服も似合っていたけど、ちょっとした中世の社交場に出てきそうな洋服も似合うと思う。 言っておくけど、だから好きだとかそう言うのは止めて欲しい。純粋に似合う、似合わないを言っているだけで、すぐにそんな風に結びつけるのは子供っぽいよ。さっき廊下で茶化してきた鳩羽三段とは言わないけれど。 「今日調子いいみたいだな」 対局場の隣にある待機室の1つにあるテレビに隣の様子を映したまま、相手の手に合わせて石を動かしていた白臣元名人がにやりと笑う。 対面には烏丸十段がいて、「お前いつも蛍ちゃんばっか贔屓しているよな」なんて言いながら笑い合っている少し離れたところには、烏丸七段が同じように進行形で行われている一局を並べていたと思えば、老体達に「黙って並べられねぇのかじじい共」と舌打ちしている。僕にしてみたらあんたも十分声がでかいですよ。 「お、焦れて池田のババアが仕掛けてきたな」
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