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「守ってばっかじゃあのババアの勢いに飲まれるんじゃねぇのか?」
「池田もそこまで火力がある訳じゃないだろ。烏丸はどうだ?」
もう1人の十段の方に振れば、息子と一緒でどちらかと言うと火力重視のタイトルホルダーが、白臣元名人の手もありうるけれど、烏丸七段の一手も攻守ともにどちらにも転じやすいんじゃないかと、微妙なラインの答えを出してくる。だからどっちなんだよ。
(蛍はどうするんだろう)
あいつには僕達には見えない次元のものが見えている時があるみたいで、時々意味がわからない言葉を使う。やれ『星が光っている』とか『道が綺麗』とか。
だけどそれが見えた時は会心の一局が出来るようで、特に有名なのがこの前の女流名人戦。あの3戦目は並べていても、名人側の思惑はわかっても挑戦側のあいつの思考が全く読めなくて、終盤になってここがここの地を目的で打っていたのかとハッとする事が何度もあったし、出来上がった棋譜は息をのむ程綺麗だった。
それから調子がいいみたいで、上段の棋士相手にも一歩も引かず、前評判通りこの前昇段して四段になった。
僕も何とか昇段出来たからまだ差は1つのままだけど、三段から四段に上がるの難しいと言われているのに、どストレートで進まれるとちょっと嫌になってくる。うれしい気持ちも勿論あるけれども。
「大ゲイマ?(自分の石から縦と横に1路と3路(3路と1路)離れた場所に跳ぶ手)何考えてんだあいつ……」
しばらくして打たれた一手は誰も考えていなかった一手で、烏丸七段の考えていた自陣の厚みを持たせながら攻守ともに行けそうなケイマでも、守備を固めるオサエでもなく、さらに一目外の大ゲイマ。
打たれた相手も半分首を傾げながらも大して迷うことなく打っているが、少なくともこの場とあそこの場にいる誰もよくわかっていない。
(ちゃんと説明しなよ蛍)
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