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(いけないいけない)
ぱっと視線を外すと、さっきの質問の意味を教えろと猫がじっとこちらを見ている気配が続くが、ぱしっと払うとさっと辺りを見回す。
(そう言えば見かけないけど……後で来るとかなのかな)
「ねぇ、『あの人』は?」
いつの間にか烏丸七段と同門の先輩棋士が2人の輪に加わって話を弾ませている隙にさっと聞けば、最初誰だかわからなかったのかしばらく考えていると、思い当たったようで首を振る。
「仕事」
(何か……意外)
意外も何も数える程しかあった事がなかったが、それでもこの祝いの場に現れないタイプではない感じだった。
(それに相当嫉妬深そうだったし)
だから余計に色んな人がお祝いを述べにくる、ある意味出会いの場とも取られかねない所に、こいつを1人で置いているのが想像とちょっと違うなと思ってしまう。
(でもめちゃくちゃ有名な弁護士だし、当たり前って言ったらそうか)
あれからこっそりググれば、出てくるかどうかなと思っていた数秒前の自分が馬鹿らしくなる位ずらずらと出てくる華やかな経歴に、思わず同姓同名の偽物かと思ってしまった程だった。
顔写真で確認して本人で間違いないのはすぐにわかったが、そんなに有名な人物といつの間にか接点を持っている事はおろか、お互いに公言しないけど(しようもないと思うけど。どう考えてもカミングアウトした時点で、世間の冷たい視線にさらされる事は間違いないと思うし)そういう仲になっている相手の快挙に駆けつけないなんて、仕方ないと思えばいいのか、呆れればいいのか。
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