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(これ、見たら結構すごい事になるかも)
烏と猫のじゃれ合いも気にせずシャッターを切った相手からスマホを受け取ったあいつの手元を見れば、これは完全に喧嘩っプルに見えるなと思えるような一枚が見える。
(……さすがにまずそう)
「蛍、僕のスマホの写真をあげ……あ」
せめてソフトにみんながこいつに寄り添うような一枚の方がいいだろうと思ってラインを起動すると、それと同時にそのまま写真が添付されて相手へ向けて発信される。
「何?」
「……何でもない」
(知らないからね)
こいつに微妙な男心を理解しろと思った僕が馬鹿だった。これはもうこの後の結末が何となく見えた気がするが、すでに遅いという奴だろう。
「白臣くん、ちょっといいかな?」
「はい」
だけどせめてフォローを入れさせた方がと親切心を発揮する前に、目の前の黒猫がするりと別方向へ歩き出してしまったとならば、天を仰ぐしかない。
「なんだ?人に酔ったか?」
「……イエ」
考え方によっては僕には直接関係のない話だからどうでもいいと言ったらいいが、多分2人の関係を知っている数少ない人間とやらにカウントされている身としては、いたたまれない事もある訳で。
(絶対明後日どこかにキスマークくっ付けてくるな)
周りはそれがキスマークだと絶対気が付かない。場所が場所だし、こいつがこいつである限り、それをわかる人間は限られてくる。例えば僕のような人物。
(ホント……勘弁してよ)
下手に相手をおちょくってやろうと思ったのが裏目に出たなと、対局が大荒れになる事を予想しつつ、縁側に置きっぱなしになってしまっているあいつのスマホが震えるまで後数秒。
怒涛のライン攻撃の挙句、最後には電話が鳴りだしたスマホは主人不在のまま、縁側でむなしくぶるぶる震えるだけだった。
(見てない、見えない。僕は何も見てないから)
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