逃した猫は大きい3

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だったらさっさと結婚すればいいじゃない。こちとらそんな話題すら出てこないし、あまつこっちの仕事に対して嫉妬なんだか嫌味なんだかよくわからない言葉を投げられて喧嘩までしたと言うのに、壁越しの女性は周りから早いと言われている程若くして相手からそれを望まれるなんて贅沢もいい所だと思う。 完全に嫉妬の八つ当たりもいい所だったが、それ以外の感想も思い浮かばないでいると、壁の切れ目からわずかにシルエットの一部が見える。 小柄で黒髪の女性・・・というよりは女の子に近い。 「年とか関係ない」 (あれ……どこかで……) 完全に困惑しているおじさんに向かって顔を上げると、横顔の一部が見える。真っすぐな瞳・・・。 「名人をとったら」 「「え……」」 「絶対とるから」 思わず声が出てしまい、偶然にも数人の男性達と声が重なる。 「それでいい?って言ったら、いいって」 『絶対』、その言葉に頭を殴られたような気がした。 もったいぶったような言葉、だけど受け取りようによっては確信的な自信の表れともとれるような言葉だった。 きっと相手は彼女の強さに惹かれたんだろう。どこまでも努力して、言った事を成し遂げられる事を知っているんだろう。だから私よりもずっと幼く見える子に一生を捧げたいと思ったのかもしれないし、目標を叶えるまで待つと言ったのかもしれない。
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