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「あ、甲斐くんアメリカに戻ってたんだ。わー、ここのワインの今年物だ」
帰った時に買ってくれるんだけど、今年はここのかーと喜びながら2つの箱を他の荷物から分けるようにしていると、最後に私達が見つけた不思議な食器に目が行く。
「ついに出来たんだ!」
一際嬉しそうな声を出したかと思えば、2つの箱を床に置いてその1組の正体不明のものを取り上げる。
「それ、先生が注文したものなんですか?」
中身が気になって聞けば、嬉しそうな顔のままうなずかれる。
「イタリアのガラス工房にいい腕の職人がいるって聞いて、向こうの知り合いに頼んで作ってもらったんだ……ほら」
「……ガラスの……石?」
重いと思っていたのは中に物が入っていたからで、蓋を開けて中身を見れば、中には黒色の楕円形のような石がぎっしり詰まっている。
ここのフォルムを表現するのは大変だったらしいんだけどさ、やっぱり腕がいいと違うね。と言いながらもう1つの蓋を開ければ、もう1つの方には黒と対照的な同じ形の白い石が詰まっていた。
「それ、何ですか?」
「ん?碁石。ガラスの碁石だよ」
嬉しそうな先生の顔を見ながらふとある人物を思い出す。
(そう言えばあの人も囲碁がどうとかだったな)
和服が似合う1人の老人。あれからここで会う事はなかったのに、やけに印象的で記憶に残っている不思議な人物。
(もしかして……)
これはプライベートな質問になるのか判断に迷うところだが、こちらが判断に間違っても、相手がそれをプライベートだと判断すれば何も言わないだろうと、半分お叱り覚悟で訪ねてみる。
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