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「それって、前に来た囲碁名人とかおっしゃっていた男性用ですか?」
「え?あ、あー……名人ね」
すぐに私が言おうとしていた人物が頭に思い浮かんだのかにっこりと笑うと、さすが受付の鏡!一度見た顧客を覚えちゃうなんて!と、お叱りなんだかお褒めの言葉なんだかよくわからない一言が返される。
結局その3つを持って自室に戻り、また会議室へ戻っていった彼が再び出てきたのは夕方近くで、途中で報告が終わった弁護士がぽつりぽつりと出てきては、ぐったりしたり、うれしそうだったり色んな顔で各業務に散っていったのを横目で見つつ、今月のスケジュール調節をしていると、最後の1人とともに出てきた彼はさすがに疲れたのか、マイキーに甘いものが食べたいなんてかわいいおねだりをしている。
『マイキー、これも持って行って。先生昼ごはん食べてないんでしょ?』
『ありがとう。そうなんだよ。仕事熱心なのはいいんだけど、あの放食ぶりはどうにかしてくれないかなぁ』
コーヒーと一緒に、この前アメリカに帰省した際に本人が買って帰ってきたメープルシュガーがついたシュガースティックと、差し入れでみんなに配ったドーナッツを乗せたトレイを渡せば、誰よりもドーナッツが似合いそうな男性が困ったように口を曲げながら部屋に消えていく。
(食べるかな)
普段差し入れはあまり食べないし、甘いものは好きなような事は言っていたけれど好みはあるようで、少なくともチョコレートの類はどんなに高級だろうと1つ位しか手に取らない彼が、わりと安物のドーナッツを頬張っている姿はなかなか想像出来ないかもしれない。
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