Ignition

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1  解熱剤が効いたのか、窓から差し込む強烈な日差しを二時間背中に受け続けていたせいなのか。朝八時からの会議が終わる頃には、シャツはおろか、ジレまでもが背中に張り付くほど汗だくになっている。 新井秀成は額に滲んだ汗を拭って席を立ち上がった。体は気持ち悪くとも、熱も抜け、頭は少しクリアになった気がする。とはいってもそれも気分の問題なのか、書類をかき集める手は重い。  定例会議など、本来は必要ないものだ。第一にドキュメントを作る時間が無駄だ。それに「週に一度のこの会議で進捗を伝えれば良い」と伝達に手を抜く輩が増えるのも良くない。仕事の透明化には何よりもまず、日頃のコミュニケーションが重要だからだ。 根本をひっくり返すべく、システム部や顧客管理部、広報部を解体し、総務部として半ば強引に一括したのが三年前。部内はすっかり風通しが良くなったが、それが全社スタンダードになるまでの道程は長い。 大企業の中にどうにかベンチャー気質を保とうと奔走し続けていても、気持ちに身体がついていかないこともある。新井が四十五歳という年齢を感じるのは大概こういった時である。知らぬ間に溜め息が落ちる。 「新井さん、おつかれさまです。……大丈夫ですか?」
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