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バレンタイン当日。
私と藤原の義理チョコ撲滅同盟のことなどつゆ知らず、やはり義理チョコが欲しいと思うおじさんもいるようで、
「山吹ちゃん、今日はバレンタインデーだねぇ」
と声を掛けられた。しかし、私はもちろん盟約通り何も用意していないので、
「あっ!本当ですね」
と満面の笑みで答えておいた。
私が義理チョコを配る気配が全くないのを見て少し寂しそうにするおじさんの背中を見て、若干申し訳なくなった。
いやいや、でもこの同盟は男性陣のためでもあるしと自分に言い聞かせる。
今日は、珍しく仕事が早く片付いたので、定時で職場を出ることにした。
「おっ。デートか?バレンタインデーだもんなぁ」
「あはは。どうでしょうね」
おじさんからの冗談に適当に答えて、帰路につく。
職場を出てしばらく歩いたところでスマートフォンにメッセージを受信した。藤原からだ。
『デートじゃないとみた(笑)ホワイトデーの手間が省けたお礼に晩飯奢るよ。20分だけ待っててくれない?』
『どうせ彼氏いませんよ。藤原に言われたくないけど…。適当に時間潰しとくね』
送信ボタンを押して、本屋で立ち読みをしながら藤原を待つことにした。
「まったく。バレンタインデーに同期と居酒屋なんて色気ねぇな」
そう言いながら現れた藤原といつもの居酒屋に向かう。
いつものように談笑し、いつものような時間が過ぎていった。
店を出た私たちは、2月の冷たい夜空の下、いつものように寮までの道を肩を並べて歩き始めた。
周囲に人がいなくなったのを見計らい、私は鞄からそっと箱を取り出した。
「藤原、これあげる」
「ん?だから、義理チョコはやめようって」
「義理じゃなければいいでしょ?お返しはいらないからっ!」
そう言って私は走り出した。
「はっ?はぁーっ??おい。待てよ、山吹!!」
あぁぁ。渡しちゃった。
明日からどんな顔して職場に行こう。どんな顔して藤原と喋ろう。
軽くパニックになりながら走っていた私の腕を、追い付いた藤原が掴んで向かい合わされる。
「…バレンタインデーに好きでもない女を飲みに誘うかよ」
「お店のチョイスどうなのよ…」
月明かりに照らされて、二人で笑いあった。
斯くして、私たちの義理チョコ撲滅同盟は、その任務を全うし、私の密かな計画も成功に終わったのである。
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