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「うーん…」
会社からの帰宅途中、私は駅のホームで電車を待ちながらあるイベントについて考えを巡らせていた。
「はぁ…どうしよ…」
「どうした?何か悩み事かー?らしくねぇな」
気が付くと腰掛けていたベンチの隣の席に同期の藤原が座っていた。
相談してみようかな、とも思ったが、彼に聞くのは違う気がした。
「いやぁ、今日の晩ご飯は牛丼と親子丼どちらにしようかと…」
適当に誤魔化して、にへらと笑った。
「ふっ。山吹らしいな…」
藤原は、そう言って視線を私から線路へと移した。
しばらく沈黙が続き、到着した電車に二人で乗り込む。私も藤原も会社の最寄駅から二駅の独身寮に住んでいるので、同じ駅で降りる。
「飲みに行こうぜ」
そう言って藤原は居酒屋へと歩を進めた。
いつも通り仕事やプライベートで起こったちょっとした出来事などを話しながら飲み進め、三杯目のビールに口を付けた藤原から私に一つの疑問が投げられた。
「山吹さぁ、バレンタインは職場に義理チョコとか配るつもり?」
まさに私が先ほど電車を待ちながら悩んでいた内容だ。
「うーん。一応配った方がいいのかなぁとは思っているんだけど…」
苦笑いで答えると、藤原は軽く眉間に皺を寄せた。
「マジかぁ。去年はさ、一番下っ端の俺がホワイトデーのお返しを買いに行かされて、結構めんどくさかったんだよね。だから、今年は義理チョコとかやめない?」
うちの職場は職業柄女性が少ない。去年は、私以外にもう一人女性の先輩がいたが、今年は産休で休んでいるから、女性は私だけなのだ。だから、私がバレンタインにチョコレートを配らなければ、藤原がパシられることもない訳だ。
「私もチョコを配るべきか悩んでいたんだよね。配ったら配ったで、お返し大変だろうしなぁと思ってさ。男性は三倍返しとかいう風習もおかしいと思ってるんだよね」
「だよな。やめようぜ。義理チョコなんて誰も救われない悪しき風習だろ。チョコレート屋が儲かるだけだろ」
「よし、じゃ、悪しき義理チョコを撲滅すべく、『義理チョコ撲滅同盟』を締結することを提案します」
「そのまんまだな。まぁ、いいだろう。では、『義理チョコ撲滅同盟』に」
「「乾杯」」
斯くして、今年のバレンタインには我らの職場から義理チョコを撲滅すべく、ここに同盟が締結されたのである。
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