1・Akatsuki

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 日も沈んで、辺りは夕闇。夜と昼の狭間で、外は影絵のようになっている。  トンビは縁側に座り、ぼんやりと庭を眺めていた。  広くもない、十一坪ほどの庭。そこには白い玉砂利が敷かれ、中心には小さな池がある。和風庭園を造るように、池の傍には石灯篭が設えられ、松と紅葉が景観よく植えられている。庭を囲うのは、清水垣と呼ばれる細い竹を縦に並べた竹垣だ。  トンビはこうして庭を眺めるのが好きだった。  実家が田舎あるあるの和風の家だったせいか、和の要素に落ち着きを感じやすい。  実家を離れたのは母親の死をきっかけに、二十歳になってから。夜羽と二人、アパート暮らしを始めた。が、間もなくして、街外れに売りに出されていた古いが純和風の平屋を見つけ即購入。このご時世、古民家カフェにするには需要があれど、居住のためとなれば人気が出なかったのか価格は安かった。とはいえ、金の出どころは両親の遺産と、土地を含め実家を売ったことによるものなのだが。  そうして夜羽と二人、できる限りを自力で改修し、庭を整備して、今のこの家に住んでいる。買ったことに後悔はない。  トンビは機嫌がよかった。  なんだかんだといって、結局夜羽の用意していた食事はトンビの好物ばかりだった。焼き魚をメインに、なめこと豆腐の味噌汁、ほうれん草のお浸し。唯一、白菜の漬物だけは鼻をつまんで食べたが、食事を終えたトンビは満足げにごちそうさま、と手を合わせた。 「トンビ、今日は出ないのですか?」  お盆に湯気立つ湯呑を二つ乗せ、夜羽が隣へ歩み寄る。  トンビは湯呑を受け取りながらぼんやりと竹垣の向こうへ視線を配った。 「なんだかなあ……気が乗らないっていうか、疲れてるっていうか、今日はゆっくりこうしてお茶を飲んでいたい気分なんだけど……」  そこまでを言ってお茶を啜り、胸いっぱいの息を吐き出した。 「どうしました?」 「行くしかないよなあ……」  やれやれと熱さを知らずに残りのお茶を飲み干し、トンビは気怠そうに立ち上がった。
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