1・Akatsuki

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 今度はしっかりと嘴が閉じている。今度は突き刺そうとしているのだろう。トンビの目には槍の切先のように見えた。 「なっ、んなんだよっ、こいつ!」  間髪入れない速さ、手段を変えてくる攻撃。  予想だにしていなかった展開に、トンビは焦燥感を隠せなかった。  仰向けの状態で不格好ながらに振り落ちてきた嘴を白太刀で受け止めた。再び巻き起こる風に、砂埃が舞い上がる。トンビはしかめっ面をしながらも、白太刀から目が離せないでいた。  刃の面積と鋭利な嘴の先。力の入れどころを間違えれば、たちまち嘴は刃をすべり顔面に落ちてくる。だが、力で押し込もうと鴉ははばたき、なおも砂埃がトンビの顔面を襲う。食いしばる口の中で、じゃり、と嫌な音がした。 「くっ、そ……」  どうにか耐えてはいるが、このままではどうにもできない。  寝転んだ状態では腕に力を入れにくい。ただでさえ、立ってでも押し返せなかったのを、この体勢で押し返せるわけがない。 「やべぇ……マジでやべぇ。セーラーだかスーパーだか、でかくなった赤月だけで、こんなにも力つけんのかよっ……」  じりじりと迫りくる恐怖。焦燥感は思考を停止させていた。  どうする、どうする。  背中越しに夜羽が悶絶しているのがわかる。くぐもった声で、早く避けろ、と訴えられているが、トンビが避けたところで嘴は夜羽に降り落ちるだろう。 「くっ……」  腕がふるふると震え出す。嘴が目前にまで迫る。目に砂が入って視界が霞む。  どうする、どうにかしなければ。  斬れない、押し返せない。  どうする、どうする。  ぐるぐる、ぐるぐる、と。  ゴールを見つけられずに思考が焦りのレールに乗って延々と脳内を回っている。 「も、う……ダメ、だ……」    腕の力が尽きようとしたその刹那。  光が、見えた。  まるで流れ星が落ちてくるような、いくつもの光の筋が尾を引いて視界を染めていった。
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