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「カラスはどうして真っ黒なのか知っているか?」
夕暮れの刻であった。
綺麗な茜色を空一面に広げて、太陽が山の端を照らしながら沈んでいく。
小学生のトンビは、眩しそうに眉をしかめながら隣を見上げた。
「カラス?」
「そう、カラス」
悪戯心を表すように、目を細める父親と視線が合って、トンビは少しムッとした。
カラスは黒いもの。
当然のようにそう認識していたから、それがどうしてか、と聞かれても答えはすぐにでない。なぞなぞだろうか、と考えてみてもひらめきは浮かばない。
そんなトンビを笑うかのように、しゃがれた声を上げながら、いくつかの黒い影が頭上を飛んでいく。
左から右へ、顔を上げてそれを追うと、微笑みを浮かべた顔と目が合った。
「どうだ、わかったか?」
「……ううん、全然」
首を横に振って、トンビは少しだけぶっきらぼうに言った。
でこぼこ砂利道。
犬の散歩に一緒に行こう、と父親に誘われ外に出た。
小さな右手は大きな左手に包まれ、大きな右手は愛犬タロウのリードを掴んでいる。
背後に二人と一匹の影を伸ばしながら、川原の遊歩道をゆったりと歩く。
トンビは悶々と考えていた。頭の中でカラスがぐるぐると回っている。黒い羽根、黒い嘴、黒い目、黒い脚。全部真っ黒。その理由など考えたこともなかった。
「カラスは黒いからカラスなんじゃないの?」
負けず嫌い精神が出てぶっきらぼうに答えると、柔らかく首を振る姿が目に入った。それに加え見下ろしてくる目が優しくて、トンビはなんだか悔しい気持ちになった。
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