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「あーっ、わっけわかんねえ! なんなんだよ今日は! 赤月のせいか! ちっくしょー次から次って話がややこし過ぎるんだよ!」
ガシガシと頭をかきながら睨み付けた月は、煌々と赤く光り平然と見下ろしてくる。それは血を吸った綿のようで、どこか気持ち悪く思わせた。
「あーあ、たかだか白から赤に変わっただけで、なーんでこんなにも雰囲気変わるんだろうな……」
「あ、あのー……」
「あ?」
不意に入ってきた声に、トンビは目線を落とした。
おどおどと挙動不審な事務員姿の女が突っ立っている。目は左右をさ迷い、こちらを見ようとしない。
ハトがいなくなっただけでこうも態度が変わるのかと、トンビは冷ややかに笑った。
「あ、の……私はその、もう帰っても大丈夫なのでしょうか……鴉はもう、消えましたか?」
「あー、そうだ、忘れてた。あのチビ助のせいで」
「ぽっぽちゃんです!」
キッと女の目がこちらを睨み付けた。
どうやらハトのこととなると強気になるらしい。
トンビは面倒くさそうに息を吐きながら話を続けた。
「その、ぽっぽ、ちゃん……のせいで、声全部聞けなかったんだけどさ。あんた、誰か大事な人亡くしてる?」
「え? あ、はい、今年の」
「ああ、詳しくは話さなくていい。ただ、アンタに憑いていた鴉はその人だと思うよ」
「えっ……」
途端に女の目は揺らぎ始めた。
嬉しいのか、悲しいのか。
大事な人が誰なのか。
トンビにはわからない。けれど、女の反応に確信を持った。
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