2・Reikou

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「あんた、その人が死んで受け入れられないでいたのか、ずっと」  女はぽろ、ぽろ、と涙をこぼし頷いた。 「それでずっとずっと悲しみだけ抱いて、あのブランコで沈んでいたのか」 「は、はい……私も、彼も、星を見るのが好きで……この公園はいつも静かだし、街の明かりも届かないから……いつもあのブランコに乗って、二人で星を見上げて……」  流れる涙はまるで心を表すかのように、とめどなくその頬を濡らしていった。  女はむせびながら話す。まるで悲しみに閉ざされていた心を解放するかのように。 「い、いつか、南十字星を二人で見たいね、って……約束、したのにっ、なんで! なんでなんで、死んじゃったのっ……ずっと、ずっとここで、待ってたのに……!」  トンビは泣いてくずおれる女をじっと見下ろした。  鴉が人間に憑くのは、そこに自分の遺した意念があるからだ。  公園に来てトンビが感じた意念は〝慈愛〟だった。けれど近付いていくとそれは〝執着〟へと変わった。  しかし話を聞いてトンビは思う。鴉の意念だけではない、これは女の方も無意識に鴉を繋いで離さなかったのではないかと。 「死んだ後、きっとその人は悲しみ続けるあんたが心配で傍にいたんだろう。もう悲しまないでくれ、新しい誰かと幸せになってくれ、と慈愛の心であんたを見ていたはずだ」  ゆっくりと、女が顔を上げた。  トンビは諭すように、潤んだ目を見つめ話す。 「けれど、四十九日を過ぎてもあんたが悲嘆に暮れているから、やがてその人は悲しみが解けるまであんたの傍にいようとした。そして悲しんでばかりいるあんたを心配するあまり、あんたの傍には自分がいなければ、と慈愛から少しずつ歪んだ心となり、執着を持つ鴉へ変貌していった……」 「じゃ、じゃあ……わ、たしの、せいで……」
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