2・Reikou

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 罪の意識が出たのか、俯いてしまった女に、トンビは頬をぽりぽりとかきながら言葉を続けた。 「いや、あんたのせいっていうか……その、お互い様ってやつ、かな。けど鴉は浄翔された。行き先は俺にはわからないけど、この世からは解放された、成仏だ。だからあんたもさ、前向かないと」  大事な人を失うことは、心を抉られたように暗い穴が開く。これまでにあった日常がまるで夢物語のように感じ、明日という存在に意味を見出せない。自分の心に深く住みついていた人ほど、失うのは恐ろしくて悲しくて、死んだという現実を受け入れるのにはどれだけの勇気がいることか。 「別にさ、悲しむなっていうわけじゃないし、もう忘れなよというわけでもないし、大事な人の分まで生きろとか重荷を背負わせる気もない。ただ俺は、あんたに上を見てほしいだけ」 「上……さっき、前向けって……」  意外にもしっかりと耳を傾けてくれているらしい彼女に、トンビは苦笑した。 「いや、前を向くのもそりゃ大切だけど、どうせあんたまた彼のこと思い出して泣くだろ。それだけ大きな存在だったんだろうから」 「は、はい……とても、そんなすぐに前向きには……」 「だからさ、上見なって言ったんだよ。ほら、今日は変な月出てるけど、晴れてりゃこうしていつでも星見れるじゃんか」  トンビは言って顔を上げた。赤い月の光から逃れるように、小さな星々がきらきらと輝いている。  つられるように女も空を見上げた。眩しそうにしながら涙を拭いて、じっと夜空を見つめる。
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