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「ふふふ、確かにね。トンちゃんの言っていることも間違いない」
否定をしない穏やかな口調に、トンビは口を尖らせる。
「またトンちゃんって呼ぶ……それ嫌い」
トンビは小学生ながらに自分の名前に違和感を抱いていた。
それを初めて感じたのは幼稚園の時で、周りの園児の名札は平仮名で名前が書かれているのに、自分の名札は片仮名で書かれていた。みんなと違う、そう思ったのが最初だ。
三日月トンビ。
これが正真正銘、トンビの氏名。苗字もさながら名前も名前なだけに、小学校に入学してからはなぜか有名人気分だった。幸い、からかってくるような者はおらず、むしろ『片仮名でかっこいい名前』と人気者になった。子供は単純だ。
しかし唯一、父親のように『トンちゃん』と呼ばれるのだけは不快だった。周りの男子は〝君〟付けやあだ名で呼ばれているのに、トンビだけは〝ちゃん〟付け。それが女っぽくて嫌いだった。
「トンビ。カラスはね、死んだ人の魂なんだよ」
「……え?」
名前を呼んでくれた父親の言葉に、トンビの足は立ち止まった。
一歩先で父親が立ち止まり振り返る。
さらにその先でタロウが振り返る。
二つの視線はどうしたのと言わんばかりにきょとんとしていた。
「トンビ?」
「意味わかんない……」
トンビは足元を睨んだ。
「死んだら……死んだら天国とか地獄に行くんじゃないの? 死んだらみんなカラスになっちゃうの?」
涙を呑んだような声で父親を見た顔は、ふるふると唇を震わせていた。
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