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「ブランコ乗って地面見ていたって、なーんも見えないだろ。だったらさ、彼を想ったとき、悲しみが込み上げたとき、そうやって星を見上げなよ。彼との思い出が込み上げてまた泣くかもしれないけど、彼があそこから見下ろしてくれてるって考えれば少しは笑みも浮かばないか?」
「た、たしかに……あの星のどれかに彼がいるかも、って思うと、なんだかこんな泣き腫らした顔、恥ずかしくて見せたくないかも……」
そう言って女は恥じらうように微笑んだ。
トンビは穏やかにそれを見て、自分にも言い聞かせるように呟いた。
「大事な人が戻ってこないなら、どこかに拠りどころつくったっていいだろ。思い出に浸ったっていいんだよ。ゆっくりでもいいから、前に進むためにはさ……」
父親を亡くしたトンビは随分と泣いた。もしかしたら彼女のようにふさぎ込んで、長い間過ごしていたかもしれない。
(俺ってなにを拠りどころにして生きてきたんだっけ……)
ふと自分自身に問いかけたところで、女の明るい声が肩を叩いた。
「あのっ、ありがとうございました! 私、彼と約束した南十字星を見るために、明日からまた仕事頑張ります!」
初めに見た暗い印象は消え、女は放り出していた荷物をしっかりと抱き締め帰っていった。
途端、トンビはニヤニヤと顔の筋肉を緩めた。
鴉の声を聞くことはできなかったため想像力をうんと働かせて話した。本当の声は違ったかもしれないが、女のことは笑顔で帰らせることができた。
「俺すごくね⁉」
自己満足に振り返った。
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