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霊力が使えなくとも、鴉を浄翔できなくても、声を聞きそびれても、憑かれ者のことは笑顔で送り出せた。と自信に満ちた笑顔で。
しかしそこには──。
「夜羽……?」
静寂だけがあった。
月の赤白い光にぼんやりと浮かび上がる遊具だけがそこに佇み、夜羽の姿はどこにもない。
「あ、あれ……夜羽⁉ おーいっ、夜羽ー!」
呼びかけてみるも返事はない。
もしかしたら腹を下したのかもしれない、と隅にあるトイレを覗いてみるが、やはり静けさだけがあった。
「なんだよ、どこに行ったんだ?」
もう一度辺りに視線を配った、そのとき。
遠くにただならぬ気配を感じた。
ぞわり、と背筋を撫で付けるような、暗く冷たい感覚。
「これって、鴉、だよな……」
トンビはごくりと息を呑んだ。
ひしひしと感じる気配は一つだけではなかった。二つ、三つ、四つ……無数の気配が波のように押し寄せる。
「な、なんだ? こんな……こんな一気に感じるなんて初めてだ!」
咄嗟に公園を飛び出そうとしたところで、トンビは僅かな躊躇いを抱いた。夜羽の姿を捜して、もう一度公園に振り返る。しかしそこにはやはり、暗い静寂だけがあった。
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