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本能がままに、足が進むままに、トンビは走り続けた。
頭上からは赤月がおもしろがるように後を追いかけてきている。
走りながら、トンビは一抹の不安を抱いた。
足を進めれば進めるほど、強い鴉の意念が伝わってくる。いくつも、いくつも。
公園で白太刀が利かなかったのに、果たしてこれから目にする鴉を浄翔できるのか。
ましてや向かう先は街の中。大通りを抜け、ネオン輝くビルが立ち並ぶ。人通りも多く、若者から仕事帰りのサラリーマン、出前配達の自転車、恋人、赤月にスマホを向ける人、いろいろな人の姿が視界を埋める。
もしもこんな場所に数も知れない鴉がいたなら、夜羽の結界を張らずに戦うことなどできるのか。
不安を一つ覚えると、また一つ、と不安の種が芽を出す。
「くそっ、こんなときにどこ行ったんだよ!」
やはり夜羽を捜してからにすればよかったかと、後悔の念が足を止めさせる。
しかしそうこうしている間に、一般人に被害が出る危険性もある。ただただ己の意念を晴らす為に、鴉の群れが無作為に人へ害を及ぼす可能性があるからだ。
ぐっと唇を噛み締め、トンビは葛藤した。
このまま鴉の元へ向かい、一般人を巻き込まぬように浄翔するか。それとも、一般人が鴉に危害を加えられないことを願いつつ、先に夜羽を捜すか。
頭の中で天秤が揺れ動く。鴉か、夜羽か。
「チッ……」
舌打ちが出ると共に天秤は片方にがくりと下がった。
そして不安を振り切るように全力で走り出した。
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