0・Kioku

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「ボクもカラスになっちゃうの⁉」  子供ながらに想像をして、子供ながらのショックを受けた。  繋いだ手を振り払って、トンビはぶんぶんと首を横に振る。 「やだやだやだっ、カラスなんか嫌い! ボクはカラスなんかなりたくない! いーやーだぁっ」  駄々をこねる子供のように、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら叫んで訴えた。 「カラスなんてやだあぁあーっ」 「トンビ落ち着いて、お前はカラスなんかにならないよ」 「やあだあぁぁぁあ」  その様子はまるで、クリスマスプレゼントが望むものとは全く別のものだった時の、子供ながらの絶望感と似ている。期待や想像が純粋なだけに、子供はショックも大きいのだ。  だから周りの大人がどれだけ宥めようとも、熱が冷めるまでは耳は閉ざされたままだ。 「カラスなんて嫌いだあぁあ──!」    ◇ ◇ ◇ 「…………」  ぼんやりと板張りの天井が見えた。うっすらと橙色の光が写り込んでいる。  トンビは柔らかな布団の上、綿の中に沈んだような感覚で目を覚ました。意識がぼうっとしていて、体を起こす気にもならない。  目だけを動かし、辺りを見る。  西日に光る障子戸、日焼けした畳、無造作に脱ぎ捨てられた着物、足元に丸くなっている真っ白な犬。頭上に首を反らすと、白太刀が置いてあるのが見えた。  それでようやく、綿の中から現実へ続く糸を掴んだ。 「チッ、またか……」  不快な気分で体をのっそりと起こしたトンビは、重い頭を抱え溜息を吐いた。と、そこへ。 「起きました? また馬鹿みたいに叫んでいましたけど」  しれっと冷静な声が部屋へ入ってきた。
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