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黒曜石のような瞳の、冗談ともとれない夜羽の視線にトンビは枕を投げつけた。
ひょいっとそれを華麗にかわす夜羽に舌打ちをして、頭をかきむしる。
トンビの髪が茶色なのは事実であるが、それは染髪したのではなく生まれつきの色だった。少しばかり赤みの帯びた茶色。それでいて髪質も俗にいう犬毛なのか、くせ毛なのか、毛先がどうしてもうねり跳ねる。髪が伸びれば伸びるほど、もじゃもじゃヘアになってしまうので、トンビは短髪を維持していた。それを鳥頭、と呼ばれたのは正直ショックであったが。
対して夜羽は和装がよく似合う黒髪。トンビのとは対照的に艶のある猫毛だ。前髪は額を隠し、横髪は顎先まで伸び、後ろ髪はうなじをしっとりと隠している。少しの動作でさらりと揺れ動く毛先は、トンビには叶わぬものだ。
ついと指で毛先をつまみながら、トンビは不機嫌そうにぼやいた。
「てかな、夢どころかまんま現実なんだよ」
「はい、それは以前に聞いたので存じております。たしか、父君とジロウの父、タロウとの散歩のお話ですよね?」
「そう──」
トンビはいやと見せられる夢に溜息を吐く。
夢であり、現実。
光景も、言葉も、感情も、しつこいぐらいに夢となって脳に〝記憶〟を焼き付けていく。まるで忘れるなとでも言うように。
けれど今回は途中で目が覚めた。トンビにとってはよかったと思えることだ。
夢の、記憶には続きがあった。
──ぎゃんぎゃんと泣き喚くトンビの頭に、雛鳥が落ちてきたのだ。どこからともなく、巣どころか、木もないのに。
硬直する傍らで、父親が腹を抱えて笑うものだから、トンビは泣き腫らした目を吊り上げて怒り出した。
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