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金がない、飲み物だけでは口寂しい、ハンバーガーだけでは物足りない。
そんな問題を一気に解決し、なおかつ安価で提供できるジャンクフードのナイスな相棒。
それがフレンチフライだった。
毛嫌いする方が少数派という、稀有な名脇役。その存在はファストフードだけでなくファミレス、居酒屋と場所を変え塩分と油分を存分に振りまいてきた。奴が登場するまでは。
その単語と健康への影響をセンセーショナルに報じさせ、フレンチフライの存在を不健康の象徴へと変貌させた張本人。トランス脂肪酸である。
数寄者たちにとってはとんだ後出しジャンケンではあったが、「死」という逃れがたくも逃れたいものをこれでもかと提示されてはしょうがない。
口中を指先を油まみれにさせた魅惑の時間。多くの数寄者たちがそれらを過去へと追いやり、栄養価も程度の知れたミニサラダや茹でトウモロコシに舵を切らざるを得なかったのだ。
今更感溢れる健康志向導入が吉と出るかは定かではないが、その選択にフレンチフライが上がることは確かに減っていった。
しかしである。
フレンチフライは死んだのか?
否。断じて否。そう私は断念する。
濃すぎる塩味、爪までベトつかせる油。それらを一緒くたにコーラで流し込む快感。
目を閉じればいつでも思い起こすことのできる甘美なコレステロール満点な記憶たち。
それらを諦める理由が「死」などという5秒後にも訪れるかもしれない迷惑な使者に汚されるなど、私には断じて許すことが出来ない。だから
「メガフレンチフライですねぇ。こちら少々お時間いただきますがよろしいでしょうかぁ?」
満面の笑みを張り付かせた若干間延びする声にも、私は黙って首肯するのだ。
会計を済ませ待つこと暫し。
「お待たせしましたぁ。番号18番、メガフレンチフライでお待ちのお客さまぁ」
僅か数分であったが、その声を随分と待った気がする。
番号札を差し出し、甘美な香りと共にうけとったそれは
「……ぉおお」
私が声を漏らすに充分な出達であった。
通常Lサイズ3つ分を謳うのも伊達ではない。小山の如く盛られた炭水化物と油のハーモニー。そこに荒く振られた食塩のきらめきは、健康などといった小さな建前など軽く吹き飛す。
いやがおうにも高まる期待に心を震わせながら、私はテーブルへと向かうのだった。
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