第1話 桜が咲いた

10/13
前へ
/37ページ
次へ
「社長が俺に言った事の意味がよくわかりました。ただのオルゴールだろうが、持ち主にとっては形見にもなる大切な物の可能性もあるんだ、って。他人の物の価値を、他人が決めちゃダメなんだって」 気がついたら俺は涙を流していて、軽トラは事務所の前に到着していた。 「っすみませんでした。この仕事を、軽く見ていて」 「…もう良い。お前は」 「お願いします!あのオルゴール、俺に配達させてください!!」 運転席に向き直して、頭を深く下げた。 社長はダメだと言い切ったが、俺は引き下がれなかった。 「謝りたいんです。謝って、ちゃんと持ち主の元へ返してあげたいんです!お願いします!!」 長い沈黙が続いた。 両手を握りしめて答えを待っていると、頭上から大きなため息が聞こえた。 「……あの家で最後だからな」 「!ありがとうございます!!」 「ったく……」 鬱陶しそうにガシガシと頭を掻いて、窓の外を睨む社長の顔は、いつもより少し優しく見えた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加