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ヒッと音無さんがわずかに怯えたのがわかった。
うん。
俺でも怖いと思う…。
真っ黒なスーツにハット。
オールバックが隠れているのが、強面をより強調させていて完全にヤクザの出で立ちだ。
「社長……」
「お前は下がってろ」
言ったと同時に俺を後ろへと引っ張り、木崎社長はドアを勢い良く開いた。
「キャアッ!?な、何よ貴方!警察呼ぶわよッ!!」
「すんません。けど、こっちも仕事なんでね」
「し、仕事って、貴方たち、ヤクザでしょ!やっぱり詐欺か何かだったのね!!」
「違っ……」
反論しようとしたら、後ろ手に制された。
黙っていろ、という事なのだろう。
いまだに叫び続けている音無さん。
どうするのだろうと、その背中を窺っていると、
……え。
土下座した……?
しかも、地面に頭をつけて。
「何、を……」
「この、度は、うちのモン…従業員がこちらの爺さん……御主人に対して、無礼を働いた事を、深くお詫び申し上げます」
だいの大人の突然の土下座と、たどたどしい敬語に、俺と音無さんは唖然としていた。
「お……私が責任者の木崎綾女だ、です。こんな出で立ちなモンで荒い言葉づかいで申し訳ないっす。だが」
社長は再び立ち上がると、箱からオルゴールを取り出した。
「これは、返させてもらいます」
「し、しつこいわね!いらないっ、て……」
音無さんが言い終わる前に、社長がオルゴールの蓋を開けた。
「……」
中から聞こえてくる、小さな弾く音。
何の歌かはわからないが、童謡のようだ。
「これ……」
「…こいつ、五年経った今でも鳴るんすよ。まるで、まだ聞かせなきゃいけない奴がいるんだって言ってるみたいに」
「……」
「草児さんも、聞きたがってるんじゃねぇっすかね」
「……っ」
社長からオルゴールを受け取り、音無さんはポロポロと泣き出した。
夕焼けにあたるオルゴールは、涙とともにキラキラと輝いていた。
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