『恋の音が聴こえない』バレンタイン☆チカ×サクSS

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「間が悪い男」って書いて「前野千景」と読むんじゃないかと最近疑っている。  少なくとも、ここタイムライン∞カフェにおいてはそうだ。室井オーナーも、さすがに呪われてるんじゃなかろうかって勘ぐり始めたところかもしれない。  以前クリスマス時期に盛大に寝込んで大失態を晒した男が、今度はバレンタインという一番大事なときに寝込んでしまった。 「日頃の行いじゃね?」  あっさり毒を吐いて楽しそうに笑う星児さんも、もう心配するだけバカらしいって顔してる。 「インフルエンザじゃないだけよかったって思わなきゃね。まだ流行ってるみたいだから」 「そうっすね」 「サクッチ、チカのとこ行くよね? くれぐれももらってこないようにね」 「はいっす」  ピンクオーラ全開で釘を刺されたので苦笑いして返すと、隣のロッカーを閉めながら星児さんが小さく吹きだした。 「岡部さん、こいつに言っても意味ないですって。野獣なの前野さんだから」 「星児さん余計なこと言わない!」 「へいへい」  オレの繰り出したパンチをさらっと避けて、星児さんはそのまま「お疲れ様です」と大きな紙袋を手に爽やかに去っていく。焦った顔のまま岡部さんを仰ぎ見ると、色気丸出しの瞳がパチッとウインクをした。 「大丈夫。唯月には言わないから。じゃあお疲れ」  これまた大きな紙袋をふたつ差し出されて、「はぁ」と力なくうなずくしか術がない。受け取ると、ずっしりと両手に重みが乗っかった。受け取れない愛の重さってほんとハンパない。
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