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☆ ☆ ☆
「ハイ。これチカのぶんね」
「ありがと。サク」
ひと回り大きいほうの紙袋を、雪崩の起きないように注意して壁に立てかけた。なかにはファンからの大量のチョコレート。今日はバレンタイン当日。タイムライン∞カフェでは不動の一番人気を誇るチカに直接手渡すことができなかった女子から託された、精いっぱいの愛のかたち。
そのとなり、寝ているチカからは見えない位置に、こっそり小さな包みをふたつ置いた。今年も懲りないオレからの、万奈先生監修の手作りバレンタインチョコと、誕生日プレゼント。前にチカが欲しいって言ってた、小さな石ころの写真集だ。
「具合よさそうじゃん。顔色昨日よりいいし」
「ん。薬効いて熱下がった。もう大丈夫」
「髪濡れてね?」
「さっきシャワー浴びたから」
「え、マジ。乾いてねえじゃん」
「大丈夫だよ」
「だめ」
慌ててドライヤーを持ってきて、背中を支えて上体を起こさせる。有無を言わさず乾かしタイムを始めると、いいよいいよと遠慮していたチカもしゅんとおとなしくなった。オレと同じ紅茶みたいな薄めの茶色に染めた髪。触り心地が柔らかくて気持ちいい。
最近は、オーナー指令でオレが髪色を変えると、翌週には微妙にズラして真似してくる。新作の革アクセを作ったときには、まずオレにつけさせて客の反応をみる。あまりに距離感が近いことをしまくるからヒヤヒヤしていた矢先、まず松崎さんに関係がバレた。そこからはもうあれよあれよという間に従業員に全バレ。それはおもしろいくらいあっさりと広まってしまって、オレもチカも退職を覚悟した。だってさ、タイムライン∞カフェのお客様は乙女なんだから。男どうしで付き合ってるのってやっぱりナシだろ。
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