最終電車

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おばさんが行ってしまって、時計を確認してみると、もうすぐ終電の時間になろうとしていた。このまま、もう敏生は現れないかもしれない。仕事の目処がつかず、もしかして会社に泊まり込むつもりなのかもしれない。 結乃の固めていた決心も挫けてしまって、涙が零れて落ちた。 今は、頑張って作ったチョコのことなんて関係なく、ただ敏生に会いたかった。敏生に会って、あの少し優しくなる眼差しを、一目見るだけでよかった。 ひとしきり泣いても状況は変わることなく、結乃は涙を拭って帰ることにした。終電を逃して、駅で一夜を明かすわけにはいかない。 息を深く吸って、歩き出そうと顔をあげた時のことだった。 結乃の目の前に……、敏生が立っていた――。 「……もしかして、俺を待って……?メール、見てなかった?」 驚いた顔をして、敏生は焦っているような声で問いかけてくれる。結乃もそれに、首を横に振って答えた。 「ううん。…メールは、ちゃんと見たの」 「じゃ…、どうして?」 戸惑う敏生に、結乃は手に持っていた小さなペーパーバッグを差し出した。
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