最終電車

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敏生が帰るときには、必ずここを通るはず。行き交う人々の邪魔にならないように、駅のコンコースの入り口と改札が見える位置に移って、そこを居場所にした。 ラッシュアワーの家路を急ぐ人たちが、ひっきりなしに往来していく。そんな中で、結乃は敏生の姿を探して、ひたすら立ち続けた。 時間が移り変わって、客足が落ち着いてくる。それでも、結乃は敏生が現れてくれるのを待ち続けた。 夜が濃くなっていくにつれ冷え込んで、出入り口に扉のない駅のコンコースには、外の冷たい空気が忍び込んでくる。そんな場所で、何時間もそこに立ち続ける結乃を不審に思ったのだろうか。駅の清掃員のおばさんが、声をかけてきてくれた。 「ちょっと、人を待ってるんです」 そう言って、結乃は説明する。 「ずいぶん待ってるみたいだけど、連絡はしてみたの?」 心配してくれるおばさんに、結乃は作り笑顔で頷いてみせる。だけど、下手に連絡をして、懸命に大事な仕事をしている敏生の邪魔をしたくなかった。
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