最終電車

6/7
前へ
/28ページ
次へ
「芹沢くんがチョコを嫌いだって知ってたけど…。どうしても今日、これを渡したくて…」 その中にある物が何かを覚って、敏生は息を呑んで固まった。暑くもないのに、見る見る間にその顔が真っ赤になる。 そして、改まるように姿勢を正すと、細かく手を震わせながらペーパーバッグを受け取った。 「……チョコ、実は嫌いじゃないんだ」 恥ずかしそうに告白する敏生のその言葉は、〝ありがとう〟の代わりだった。その真実を聞いて、結乃が目を丸くする。 「……え?どういうこと……?」 首を傾げる結乃の顔を、敏生はロクに見ることができない。 「…あっ!急がないと、もう終電が!」 と、敏生は話をはぐらかすように、時計を振り返る。すると、本当に時刻が迫っていて、悠長に話をしているどころではなかった。 並んで改札を抜けると、ホームに向かって無言で懸命に走る。敏生はもっと早く走れるはずなのに、結乃に合わせて走ってくれた。 階段を駆け下りている時、結乃が巻いていたマフラーが緩んでハラリと飛んでいった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

814人が本棚に入れています
本棚に追加