社員食堂

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結乃がそんな努力を続けていた、ある日のこと。 チョコ作りに追われていて、お弁当にまで手が回らない結乃は、社員食堂へ足を運んでいた。同じ課の同僚たちは、偶然にもみんなお弁当持ち。結乃は独りで、いささか寂しい昼食になろうとしていた……その時。 見つけてしまった!込み合う社食の中で、独りで食べている敏生の姿を。幸運にも、敏生の隣には誰も座っていない。 結乃の胸が、突然早鐘を打ち始める。早く行かないと、ほかの誰かにあの貴重な席を占領されてしまう。結乃はB定食の載ったトレーを握りしめて、緊張で震える足を踏みしめながら、敏生の側に近づいた。 「あの、ここ。空いてますか?」 結乃が思い切って声をかける。と、敏生は目を上げて、声の主が結乃だと分かると、 「…ああ、うん」 と、その眼差しをいつものように和ませてくれた。 とりあえず、隣の席に落ち着いてみたものの、お互いに黙々とランチを食べるばかり……。 二人の間には会話というものが介在せず、結乃は焦り始める。何か話しかけようにも、何を話せばいいのか分からないし、敏生の方からも話しかけてくれる様子はない。
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