前田利家×まつ

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「まつ聞いてくれ!」  貴方は家に帰ってくると真っ先に私の元へときて、その日あった出来事を話してくれましたね。 私も、貴方が帰ってくるといつもの調子で「何かありましたか利家様」と尋ねました。貴方は信長様と一緒に遊んだこと、信長様が家督を継がれてからは、その時の武勲や自分についた二つ名『槍の又左衛門』を誇らしそうに語ってくれましたね。 私が何気ない日常のことや娘たちのことを話すと、いつまでもそばで笑顔で聞いてくれましたね。私はその時間が大好きでした。 「まつ……すまない」  ある日貴方は信長様を怒らせてしまって出仕停止になってしまい、落ち込んだ顔で帰ってきたことがありましたね。ひたすら私に、涙ながら謝ってきた貴方。私は知っていましたよ。 貴方が信長様のお気に入りの茶坊主に対して場所も弁えず激昂した理由を。貴方は本当にお優しいお方でした。私の父上の形見を守ろうとしたのですよね。 「まつ、武勲をたてて必ずお前の待つこの家に帰ってくる」  信長様に赦免してもらうため、貴方は小さなこの家から桶狭間へと向かって行きましたね。 浪人と言ってもおかしくないほどの粗末な生活だったため、出陣する前に三献の儀式を行うことができませんでしたから、私はその日不安で堪らなかったのです。 けれど、貴方が再び小さな玄関の、小さな戸を開けて、私の元へ帰ってきた時私はとても嬉しかったのです。 「まつ、前田家の当主になったぞ!」  信長様に無事赦免されて、暫くすると貴方は前田家の当主になりましたね。信長様に呼び出された時は何か機嫌を損ねることをしてしまったのか。と、二人して狼狽してしまいたけれど、実際は前田家の次期当主になるように、信長様から直々に命じられたと貴方は帰ってきてからそう告げてきましたね。 貴方のこれまでの努力が報われたことが嬉しくて、私も一緒に泣いてしまいました。 「まつ、親父殿から一向一揆の鎮圧を任されたぞ」  前田家当主となってからも、信長様の天下統一のため奮戦していた貴方が親父殿として敬う柴田勝家様から一向一揆の鎮圧を任されたことがありましたね。  余程嬉しかったのか、子供たちと私を抱きしめてそう言ってきた貴方は見事一揆を無事に鎮圧し、その後北陸の統制に参戦して見事武勲をあげて能登の二十万石以上を任され、大名になりましたね。
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