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・・違う。
絶対に間違っている気がする。
支配に使うためだけの力が手に入らず、激昂する王。
そしてそれが正しい感情として肯定されるこの世界。
言い様のない違和感に心を埋め尽くされた俺は、気が付けば王に向けて静かに口を開いていた。
「・・王よ。チョコレイの正体がこれで、私は良かったと思っております」
「何だと・・!?」
開き直りとも取れる言葉に怒りが再燃し、ぶわりと膨れ上がったように見える王の体。
再び空間全体に充満する怒気の奔流に、それまで固まっていた家臣団からも口々に
「ぶ、無礼な!!」
「誰かこの愚か者を取り押さえるのだ!!」
といった言葉が飛び出してくる。
だが怒りと狼狽に満ちた声に四方を囲まれながらも、俺は口を閉ざそうとは思わなかった。
伝えたい。
否、伝えなければならないと思ったからだ。
この時俺の脳裏には、目に焼き付けた異世界の姿が映し出されていた。
行き交う人々の顔には笑顔が溢れ、どこを見渡しても戦乱の気配は感じられない。
日々どこかで小競り合いが繰り返され、領土争いに明け暮れているこの世界とは空気そのものが違っていた。
勿論僅かな滞在の中で俺が知り得たものは、あの世界におけるほんの一端にしか過ぎないのだろう。
だが、整然とした街並み。
吹き抜ける澄んだ風。
そして穏やかな人々の表情を見れば、時間など関係なく自然と理解できる。
あの夢のような世界には、《チョコレイ》という名の幻想に縋り、対話より武力を重んじ、力での支配だけを望むこの世界では決して得る事の出来ないーーー
確かな平和が息づいているという事が。
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