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自身が触れた異世界での体験。
そしてそれに対する率直な感想をゆっくりと紡いでいく俺の周囲から、次第に喧騒が消えていく。
そして全てを語り終えた時、謁見の間からは、百人を超える人間が詰めかけているとは到底思えない程、あらゆる音が消え去っていた。
険悪なものではなく、どこか呆気に取られたような沈黙。
それを打ち破ったものはこの空間の主にして、この国を統べる存在でもある男の声だった。
「・・その異世界とやらに、争いが存在せぬというのは確かか」
「絶対に、とは断言は出来ません。ただ、誰一人として武器を所持している者は見受けられませんでした。それこそ、女子供に至るまで只の一人も。」
「何と・・!?」
王と俺のやり取りを耳にした廷臣達から、抑えきれぬ驚きの声が漏れる。
国同士の争い、そしてそれに伴う治安の乱れから野盗も頻繁に出没するこの世界において、武器を携帯しないのは自殺行為以外の何物でもない。
仮に女子供であろうとも、護身用の短剣くらいは腰に下げているのが当然の常識だった。
「その平和をもたらした力こそが、チョコレイだった可能性はないのだな?」
「はい。チョコレイ・・いえ、実際には《チョコレート》と呼称されているらしきその物質に、そんな力はありません。ですがその味わいはまさに、天にも昇るが如し。かの世界では好いた異性にチョコレイを贈り、愛を伝え、平和を寿ぐ習わしがあるようです」
「ほう・・」
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