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異世界の文字が読めない俺は《こんびに》に所狭しと貼られた絵柄を読み解く事しか出来なかったが、チョコレイを買い求める人々の様子と照らし合わせれば、語った内容に大きな齟齬はないはずだ。
絶対的な支配者の証から、愛と平和の象徴へと様変わりした伝説の宝。
そのあまりの落差が逆に興味を引いたのか、王は従者が恭しく差し出した異界の小箱から、残る最後のチョコレイを摘み上げた。
堂々たる体躯に比例した太い指。
その間に在る欠片はさながら米粒のようにしか見えない。
そんな少し力を加えるだけで容易く壊れそうな存在に、王は黙したまま視線を注ぐ。
そして本質を見定めるように一瞬目を眇めると、躊躇いなく口の中へと放り込んだ。
ゴクッ・・近くで誰かの喉が鳴る。
それはこの場で俺だけが知る至高の味に対しての憧れか、それともこの後に続くであろう王の発言に対する畏怖によるものか。
誰もが固唾を飲んで成り行きを見守る中、王の口元はゆっくりと。
何かを確かめるかのようにゆっくりと時間を掛けて動く。
空気そのものが凍りついたかのような、そら恐ろしいほどの緊張感。
その息が詰まりそうな程の静寂の果てに割り込んだものは、言葉ではなく、低くくぐもったような笑い声だった。
「ふん・・なるほどな。確かにこんな物で世が統べられるならば苦労はせぬ。所詮古の伝承とやらもアテにはならぬという事か」
伝承などという不確かなものを一蹴し、現実に立ち戻ったかのような王の言葉。その
「これからは超常的な力などに頼る事無く、直接的な武力で世界を支配してくれる」
と言わんばかりの不穏な気配を感じ、俺は思わず声を上げそうになる。
だがそれを制するように一瞬早く耳に届いた言葉は、俺だけでなく誰にとっても予想だにしないものだった。
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